ZR’s Log

Twitterで書くには長過ぎる話を置いておく場所。TrySailからクウガやゲームまで、思いついた事をメモのように書き連ねていきます。

 

 

 時刻はまだ正午を迎えようかという頃、だというのに。
「ん…」
 俺はここ数日、寝る間も惜しんでプログラム作りに勤しんでいた。…そのせいだろうか。目の前がぼやけて画面が見えない。指で目を擦っても、変わらず目の前はくすんでいた。
「どうしちまったんだ…」
 まるでプログラムの進捗のようだ。勤しんでいた、と言ってもこれといって進んでいるわけではなく、出口の見つからない迷路をただただ彷徨っていただけ。ついには、目の前すら見えなくなった。これでは迷うことすらできない。
「…まずいかな、さすがに。」
 眠気は既にどこかへ消えている。もう眠気にも慣れたのだろう。だが、体の疲れが現れたとなると癒さないわけにはいかない。
「仕方ない。一旦寝るか…」
 不本意ながら、俺はベッドに潜り込む。…すぐに眠れればいいけど。


 空から光が射す。丁度強烈になる時期だ。部屋にこもって作業しがちな俺にとってみれば、迷惑なことこの上ない。見事に画面に突き刺さろうものなら尚更だ。だが、この光を喜んでいるやつもいる。物静かな割に山登りを趣味とし… っと、こういうことを思ってると。
「私が、どうかした?」
「え、あ、いや…」
「やっぱり、変なこと考えてたんだ。」
「別に変なこと、ってわけじゃ…」
 勘の鋭い彼女、芽衣は昔から山登りが好き。俺をも巻き込んでくれるのは、心を許してくれている証拠のようにも思う。
 そう、彼女はふさぎ込みがちだった。両親が登山中に目の前でなくなったことで、誰とも関わるのを嫌がっていた。でも、今こうして話をしていられるのは、それを乗り越えたから。芽衣自身が、過去と向き合うことを望んだから、俺はその手助けをした。芽衣の望みを叶えたくて、俺も全力を出した。そうするうち、自分もまた壁を乗り越えていて。いつの間にか俺たちの間には、不思議な絆が芽生えていた。
「考え込んで、どうかした?」
 登山具を見ていた芽衣が、いつの間にか俺の方を振り返っていた。不思議そうな顔で、俺を見つめる。
「ちょっと、思い出してたんだ。…俺たち、いろいろあっただろ。」
「そう…ね。」
 登山具に掛けていた手が、ゆっくりと下がる。やはりまだ思うところがあるのか、芽衣は俯いてしまった。
「芽衣…」
 どんな言葉をかければいいのか悩む。違う、これも違う、とあれこれ考えて、やっと出た答えを口にしようとした。でも、それは敵わなかった。
「大丈夫。」
 大きく首を振って、芽衣が言った。力強い声。俺が思っていた以上に、芽衣は区切りを付けていたようだ。それを見て、なんだか芽衣が遠く感じた。支え合っていた関係から、何か変わった気がして。
「そうだな。大丈夫だ。俺が必ず…」
 自分の言葉のはずなのに、聞こえない。でも、芽衣は笑顔で。これも悪くないと思った。


 気付くと目が覚めていた。体を起こすと、頬を雫が流れた。同じように目を擦って涙を拭くと、視界はクリアになっていた。
「夢、か。」
 芽衣が隣にいる夢。未だ叶わない、夢。やっと、目が覚めた気がした。夢を正夢にする為に、俺の夢を叶える為に。それに、何より。
「伝えたい言葉を、伝える為に…」