空は既に青さを失い、辺りには黒が満ちる。ところどころに輝きはあるが、黒に比べれば微々たるもので、いつしか飲み込まれてしまいそうだ。耳を澄ませばさざめきが聞こえる。それはまるで、黒き無への抗いのようだが、いつしか消えてしまう。
黒を塗り替えられるものはないのか。いいや、そんなことはない。今はじっと耐えている、輝きがある。輝きが再び目を覚ますとき、空に青が満ちる。そのとき、また何かが始まる。
枠で切り取られた世界の一部を見ながら、彼は青き空を待ち続けていた。彼は幾度も幾度も青き空を見たが、そのどれもが、望んでいるものとは違っていた。否、正確に言うならば、青き空の下に広がる世界が、か。世界に彼の望むものは無く、時間を潰すことすらままならない。それでも彼がこの空の下で生きるのは、いつか来る、青き世界をその目で見る為だった。それが、彼の心に隠したあの日の誓い。
黒い空に手を伸ばす。まだ輝きは無い。
早く、早く…
黒が青に変わる瞬間が、唯一の楽しみだった。空が青に変わったとき、その下に広がる世界が、自分の望む青い世界かもしれない。そんな期待を持てる瞬間が、好きだった。
何度裏切られようとも、彼は待ち続けた。世界が応えてくれる、そのときを。
一体何度、期待を持っただろうか。もう数えきれないほどだ。それでも彼は待ち続けていた。
黒い空に手を伸ばす。地より出し輝きが今、世界を包もうとしている。
早く、早く!
黒が、青に変わる。そして、世界が、青に染まろうとしていた。
今を抗い続け、待ちわびていたそのときが、すぐそこに迫る。心に描いていた明日が、迫る。
求めていた青き世界は手招きする。孤独な心を抱える彼の居場所を、ここだ、と示すように。
今、夢を探しに行く。青き世界に満ちる、虹に向かって…