ZR’s Log

Twitterで書くには長過ぎる話を置いておく場所。TrySailからクウガやゲームまで、思いついた事をメモのように書き連ねていきます。

終わりはいつか来るけれど。

 

 

「どうしてこうなったの…?」
 横にいる彼女が俺に問う。
 女三人寄れば姦しい、とは良く言ったものだ。いや、今回は4人だから、姦しいとは言わないのではないだろうか、などと考えている場合ではなかった。彼女は完全に機嫌を損ねている。偶然だったとはいえ、2人で、と言ったにも関わらず結果はこうだ。またいつものように、6人で、ということになってしまった。それも、元々の状況を仕掛けた本人まで混ざっているのだから質が悪い。
「俺にも分からない。」
 こう答えるのが精一杯だった。もっと気の利いた返しがあるのかもしれないが、予想外のこの状況に、頭が回らないようだった。
 当然芽衣の不満げな表情は変わるはずもなく、それどころか、悪くなっているようにさえ思えた。

 


 俺は電車を降り、駅を出た。学園線の中で、滅多に降りることのない駅。そこに新年早々やってきたのには訳があった。
「フルールのやつ、どういう風の吹き回しなんだ…?」
 事の始まりは今日の朝。一通のメールが俺を起こした。要約するとこうだ。
『2人で初詣に行きませんか?』
 妙に2人という部分が強調された文面だった。
 確かに、フルールは今年で卒業。この地での最後の年始になる。だからといって、俺と2人である必要はないだろう。それこそ、真希のやつと一緒に行けば良い話だ。
 そんな事を思いながらも、俺は結局来てしまった。2年間、いろいろと、芽衣の事でもお世話になったのだから、お礼くらいはしたい。
 というか、芽衣の事をほっぽってここに来て良かったのだろうか…?
 そんな事を考えていると、駅に電車が到着したようだった。そろそろ待ち合わせ時間だし、この電車に乗っているかな、と思って改札の方を眺め見た。
「え…?」
「え…?」
 互いに、同じ反応をしてしまった。この場面を板宮に見られたら似た者同士だと言われそうだ、などといういつもの軽口は浮かびすらしなかった。なぜならそこにいたのは、待っていた彼女ではなかったのだから。
「どうしてここに。」
「どうしてここに。」
 また同じ反応。別に、似た者同士だから惹き寄せられた、なんて事はないはずなんだけど。
「俺はフルールに呼び出されたんだ。」
「健人も…?」
 途端に違和感が襲う。フルールは俺だけを呼び出しているはずだ。
「芽衣も…? でも、メールには2人でって。あっ…」
 そう口にして、気付く。2人という言葉が示すものを勘違いしていたことに。フルールと俺、ではない。フルールは、このメールを芽衣と俺に送ることで、俺たち2人で行くように仕向けたのだ。フルールのことだ、きっと俺たちが元日に初詣に行かないと考えたのだろう。そしてそれは当たっていた。
「してやられたね…」
 どうやら芽衣も気付いたようだった。どうしよう?と、少し困り顔で俺を見てくる。
「折角ここまで来たんだ、行くか。」
 俺がそう言うと、芽衣は頷いた。なんだか少し嬉しそうだ。これはフルールのおかげ、ということになるのかな。後でお礼を言っておかないとな。本当に、お世話になりっぱなしだ。
「ねえ、今誰のこと考えてた…?」
 針のような視線。先ほどまでの芽衣はどこへやら、いつの間にか女性のそれになっていた。ここで『もちろん芽衣のことを』などと返せば、過酷な山登りに連れて行かれることは間違いない。自然と触れ合ってきた彼女の勘は、俺には到底覆せないものなのだ。
「フルールにさ、お礼しなきゃな、って。」
 正直に答える、それが芽衣をなだめる一番の方法だった。

 


「芽衣、ごめんな。」
 だからなのか。思わず、口にした。事の顛末に自分が関わっていないとはいえ、それを引き起こしたのは自分なのだから。
「謝らなくても、良いよ。」
 そう言った芽衣は、目の前の4人を見ていた。仲良く話をしているフルールと真希。2人に突っかかる板宮。そんな3人を見守る水上さん。いつもと変わらない光景がそこにあった。
「あと、少しなんだもんね。」
 名残惜しそうに芽衣が言った。そう、この6人が一緒に居られるのは後3ヶ月。4月を迎えれば、フルールと水上さんは卒業してしまう。芽衣が学園に戻ってきてから、何かと面倒を見てくれたのは2人だった。だから、2人と一緒に過ごせる時間があるなら、決して無駄にしたくはないのだろう。芽衣の事だ、俺と2人で過ごす時間も、この6人で過ごせる時間も、どちらも大切にしているはず。そうして、心を切り替えた。俺にはそんな表情をしているように見えた。
「みんな、初詣、行こう…?」
 芽衣が言う。すると4人は向き直り、芽衣を囲んだ。
 女五人寄れば、なんと言うのだろう。姦しいを越えた何か。でも、嫌いじゃない。みんな楽しそうな表情で、真ん中にいる芽衣も嬉しそうで。

 

 いつか埋め合わせをしなきゃな、と思いつつ、今は芽衣が望んだこの瞬間を楽しもう。