カーテンの隙間から射す光に命を吹き込まれたかのように、その瞳は輝いている。だが微動だにしないのは、閉じ込められているからなのかもしれなかった。
「急すぎるんだよな、まったく…」
言われてみると、確かに思い当たる節はあった。妙に強い足腰や肺活量、何よりその髪色。深くは詮索してこなかったから疑問に思わなかったが、意識してしまうとやはり気になってくる。
だとしても、だ。どうしてそこまで彼女は急ぐのだろう。
改めて渡された紙を眺める。紀伝とも言える血筋の記録。これが彼女の朧げな記憶を呼び覚ました。その衝動に突き動かされるかのように、彼女は留学を決めたのだ。いささか早計なのではないか、と諭そうとも思ったのだが、彼女の目がそうさせなかった。あれを曲げられないことなど、よくわかっている。
確かに衝動は時として驚異的な力を発揮する。目の前にいるこいつも、ある意味衝動から生まれたといっても過言ではない。…と。
「ああ、そうか。そうだな。」
きっかけは衝動だったかもしれない。だが、決断したのは俺だ。衝動の中に紛れもなくある意志。
「あいつが望んでるなら、俺にできることは一つ、ってか。」
そうだ、それがあいつの望むことなら、俺はあいつを信じてやればいい。
カーテンを開け、まだ少し白んでいた頂を仰ぎ見る。
「3度目、行くか。」
南からの眩しさが色を変え始めていた。