ZR’s Log

Twitterで書くには長過ぎる話を置いておく場所。TrySailからクウガやゲームまで、思いついた事をメモのように書き連ねていきます。

いつかの日まで

 どりきゅんとのレッスンを終えて、いつものように帰路につく。あれからしばらく経った今も慣れない喧騒の中をさかのぼる。その騒がしさに少し寂しくなって、歩く速度が思わず速くなる。

 早く帰って自主練しなきゃ。そんな思いで満たされていたからか、目前に迫る人の存在に気づけなかった。

 「あっ…」

 すんでの所で体を引いてなんとかかわした。今までなら避けられなかったかな、と急に冷静になってしまう。レッスンの成果、なのかもしれなかった。

 ぶつかりそうになった相手は特に気に留めず、談笑しながら遠ざかっていく。その姿に、私と…

 首を振って思考を止める。今は考えない、そう決めたのだから。

 違うことを考えようと、辺りに目を向ける。仲睦まじく歩く男女、学校帰りの男子高校生たち、ヒールを鳴らして力強く歩く女性。どれもが眩しく見えた。アイドルのはずの私より、ずっと。

 「チョコ渡せたの?」

 通り過ぎていった人たちの会話が耳に入る。私と同じくらいの女子高生だろうか。真ん中の子に、脇の2人が興味津々な表情をして訊いていた。そうか、今日はバレンタインデーなんだ。そう気づいて改めて周りを見渡すと、チョコを買う人の姿が目立つようになった。

 「チョコ買ってくださーい!」

 少し遠くから響く女性の声。ふわふわなツインテールにセーラー服のようなワンピース。アイドル顔負けの可愛い店員さんだった。買って帰ろうかな、そう思った途端に去年の光景がフラッシュバックしかかる。また慌てて首を振る。ダメだ、と拳を強く握る。買ったところで渡す相手もいない。それどころか、今の私が誰かに何かをあげる資格なんて、ない。

 振り切るように踵を返し、再び帰路につく。この心のざわめきは型の中に流して固めてしまおう。いつか、渡せる時まで。